おしろん!

2026/10/6 / ダニング・クルーガー効果

その「馬鹿の山」、論文にないって知ってた? ダニング・クルーガー効果の元論文を読む

ココ
ギターを始めて1週間で、弾ける気しかしなかったの。でも文化祭のリハで、全然弾けなくて……。友達に「それ、ダニング・クルーガー効果だよ」って言われちゃった。

「できない人ほど自信満々」という話で知られるダニング・クルーガー効果。ネットでは、山と谷のグラフと一緒に紹介されることがよくあります。今回は、その元になった1999年の論文を、実験の順番に読んでみます。

まずは「馬鹿の山」のグラフ

ネットでよく見るダニング・クルーガー効果のグラフ(模式図)

図の読み方 横は「知識や経験」、縦は「自信」。左の山が「馬鹿の山」、まん中のくぼみが「絶望の谷」、右の上り坂が「啓蒙の坂」。この形は論文の図ではありません(よく出回っている形を描いた模式図)。

始めたばかりで少しだけ知った人は自信が一気に上がって「馬鹿の山」に登り、もっと知ると自信が下がって「絶望の谷」へ。そこから勉強を続けると、「啓蒙の坂」をゆっくり上っていく──という話です。

ところが、このグラフは元の論文のどこにも出てきません。イギリスの心理学会の雑誌の記事は、このグラフを「本物のデータではない、想像で描かれた図」だと書いています。1 では、どこから来たのか。最初に誰が描いたかは分かっていませんが、いくつかの書き手がそれぞれ推測しています。

  • ネットのミームの解説(meme.com)は、このグラフが広まったのは、2014年に経営コンサルタントの Joseph Paris がブログ記事「Lessons from Mt. Stupid」を載せてからだと書いています。2その記事には、ダニング・クルーガー効果の名前と一緒に、山・谷・坂が描かれていました。3- ブログの書き手のジョシュ・バーノフ(2018年)は、このグラフの形が、1995年にアメリカの調査会社ガートナーが作った「ハイプ・サイクル」に「驚くほど似ている」と書いています。4ユーカイ・チョウ(2026年)は、ダニング・クルーガー効果とハイプ・サイクルを「混ぜ合わせたものだろう」と推測しています。56

ハイプ・サイクルの模式図

ハイプ・サイクル(後年の模式図)。図:Jeremy Kemp「Gartner Research's Hype Cycle diagram」(Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0)。変更点:SVG を画像(WebP)にし、白い背景を付けて切り出した

ハイプ・サイクルは、新しい技術への期待や注目が、てっぺん・谷・坂・高原と進む形のグラフです。坂の名前(Slope of Enlightenment)は、馬鹿の山のグラフと同じです。4 ちなみに「馬鹿の山(Mount Stupid)」という名前の山なら、2011年のアメリカのウェブ漫画にもう出てきます。ただし、この漫画の縦は自信ではなく「その話題に意見を言いたがる気持ち」です。7

ウェブ漫画の Mount Stupid

引用:Zach Weinersmith『Saturday Morning Breakfast Cereal』2011年12月28日の回より一部

いろんな人が調べたり推測したりしていますが、はっきりした答えはまだありません。

ココ
じゃあ、論文には本当は何が書いてあるの?

今日の推し論文

Kruger, J., & Dunning, D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.(査読あり)8 題名を日本語にすると「未熟なうえに、それに気づかない」。副題は「自分の力不足に気づけないことが、自己評価を膨らませる」という意味です。

論文の最初のページは、レモン汁を顔に塗れば防犯カメラに映らないと信じて銀行強盗をした男の話から始まります。作戦がダメなことに、本人は気づいていませんでした。8

レモン汁を顔に塗る男

論文の最初に出てくる、レモン汁で防犯カメラに映らないと信じた銀行強盗のイメージ(イラスト)

著者たちが確かめたかったのは、「できない人は、できていないことに気づけるのか」です。

実験1:お笑いのセンス

大学生65人が、ジョーク30個の面白さを採点しました。同じジョークをプロのコメディアン8人にも採点してもらい、コメディアンの採点に近いほど「お笑いのセンスがある」という点数にします。最後に、自分のセンスは100人中、下から何番目くらいかを予想してもらいました(下から1番目がビリ、50番目が真ん中、100番目が一番上)。8

実験1の手順

大学生65人が、ジョーク30個の面白さを採点
同じジョークを、プロのコメディアン8人も採点
コメディアンの採点に近いほど「センスがある」点数に
自分のセンスは100人中、下から何番目かを予想

結果のグラフでは、参加した人を点数の順に並べて、4つの組に分けています。

実験1の結果

図の読み方 横は点数の組(左ほど低い)、縦は「100人中、下から何番目か」。青=実際の順位、ピンク=本人の予想。いちばん左の組を見ると、青は下から12番目なのに、ピンクは58番目。その間の長い矢印が、予想と実際のずれ(46)です。

点数が一番低い組は、実際は下から12番目くらい。ところが本人たちの予想は、下から58番目。真ん中より上でした。予想と実際の差は46で、点数の低い組ほど差が大きくなっています。8 ただし、予想の線(ピンク)をよく見ると、予想が一番低いのも点数の一番低い組です。できない人の方が、できる人より自信満々だったわけではありません。大きいのは、実際とのずれです。8

レイ
それに、このグラフに山も谷もないでしょ。横もテストの点数の組で、知識や経験じゃないの。

実験1のグラフと、よく見る山の形

点線は、よく見る「山」の形を重ねたもの。論文の2本の線は、どちらも右上がりで、山も谷もありません。

実験2・3:正解のあるテストでも?

ジョークの面白さは人それぞれ──著者たち自身もそれを心配しました。そこで次は、正解がはっきり決まっている問題で確かめています。8

実験2・3の手順

実験2:大学生45人が、法律の大学院の入試対策の本からとった論理の問題を20問
実験3:大学生84人が、教員試験の対策本からとった文法の問題を20問
解いたあと、自分の順位と、何問正解したかを予想

実験1〜4の、点数が一番低い組の予想と実際

図の読み方 4つの実験の、点数が一番低い組だけを並べた図。縦は「100人中、下から何番目か」で、点線が真ん中(50番目)。青=実際はどれも下の方なのに、ピンク=予想はどれも点線より上です。

論理では、実際は下から12番目なのに予想は62番目。文法では、実際は下から10番目なのに予想は61番目。後で出てくる実験4(パズル)も含めて、4回とも、実際よりずっと上の順位を予想していました。8 正解の数でも同じです。論理のテスト(20問)で、点数が一番低い組は14.2問できたと予想しましたが、実際は9.6問でした。8

実験3の続き:人の答案を見たら?

ココ
まわりの人の答案を見たら、自分ができてないって気づくんじゃない?

文法のテストから4〜6週間後、点数の一番低い組と一番高い組をもう一度呼び、ほかの参加者5人分の答案を採点してもらいました。そのあと自分の答案をもう一度見て、自分の順位を予想し直します。8

実験3の続きの手順

4〜6週間後、点数の一番低い組と一番高い組をもう一度呼ぶ
ほかの参加者5人分の答案を採点
自分の答案をもう一度見て、自分の順位を予想し直す

採点の前と後の、自分の順位の予想

図の読み方 左が点数の低い組、右が高い組。棒は、自分は下から何番目かの予想(薄いピンク=採点する前、ピンク=採点した後)と、青=実際。左の組は、採点した後も予想が下がらず、実際(10)とかけ離れたまま。右の組は、予想が実際(89)に近づいています。

点数の低い組は、採点する前が下から61番目、した後が65番目。下げなかったのです(実際は下から10番目)。ほかの人の答案につけた点数も、点数の低い組の方が、実際とのずれが大きくなっていました。8 反対に、点数の高い組は、70番目から80番目に予想を上げて、実際の89番目に近づきました。著者たちの説明では、できる人はもともと「周りも自分と同じくらい解ける」と思い込んでいて、ほかの人の答案を見てそれが直ったのだといいます。著者たちによると、できない人は自分の出来を、できる人は周りの出来を、見誤っていたことになります。8

実験4:教わったら気づける?

著者たちの考えでは、できない人は、自分の間違いに気づく力も足りない。では、気づく力を鍛えたらどうなるのか。実験4では、次のカードのパズルを使いました。

4枚のカードのパズル

見えている面は A・7・B・4。どのカードも、片面がアルファベット、もう片面が数字です。

ルールは「片面が母音なら、もう片面は奇数」。このルールが守られているか確かめるには、どのカードをめくればいいでしょう?8 正解は A と 4。A は裏が偶数ならルール違反です。7 は裏が何でもルールは破られません。4 は裏が母音ならルール違反になります。

実験4の手順

大学生140人が、このパズルを10問解く
何問正解したかを予想
半分の人にだけ、10分ほど解き方の講習
全員が自分の答案を見直し、正解の数を予想し直す

実験4:点数が一番低い組の、正解の数の予想

図の読み方 点数の一番低い組の「何問正解したか」の予想(10問中)。左は解き方を教わらなかった人、右は教わった人。ピンク=見直す前と後の予想、青=実際。左は見直した後の方が高くなり、右は実際に近いところまで下がっています。

点数の一番低い組のうち、教わらなかった人は、見直す前が5.8問、見直した後は6.3問。見直して、逆に予想を上げました(実際は0.2問)。解き方を教わった人は、5.3問から1.0問に下げて、実際(0.4問)に近づきました。8 著者たちは、ここから皮肉な結論を引き出しています。自分ができていないと気づくには、まず、できるようになるしかない。8

論文に書いてある注意

ココ
でも、なんで点数が低い人だけ、そんなに予想がずれるの? たまたまじゃないの?

実は、クルーガーとダニング自身も論文の中で注意しています。

外れる余地の図

図の読み方 縦の線は「下から1番目〜100番目」のものさし。左は本当は下から12番目の人で、予想を外すなら上には88番分の余地があるのに、下には12番分しかありません。右の点数の高い人はその反対です。

つまり、点数の低い人が高めに外れて見えるのは、ある程度は当たり前。著者たちも、本当の問題は「どれだけ大きく外れるか」だと書いています。8

こういう論文も出てるよ

サイコロでも同じ形が出る?(2016年)

2016年の論文では、1154人分の点数と予想を全部でたらめな数(サイコロのようなもの)で決めて、元の論文と同じ作り方でグラフを描きました。9

2016年の論文の手順

1154人分の点数と予想を、でたらめな数で決める
点数の順に4つの組に分ける
組ごとの平均を線で結ぶ

サイコロで決めた点数と予想のグラフ

2016年の論文と同じ手順で、こちらででたらめな数を作って計算した図

すると、サイコロなのに、点数の低い組ほど高く予想したように見えます。外れ方のくせだけでも、ある程度は同じ形が出るということです。ただし、元の論文のクルーガーとダニングは、2002年に別の研究者から「回帰効果で説明できる」と批判されたとき、教わった人だけ予想を下げた実験4の結果は回帰効果では説明できない、と反論しています。10どこまでが見間違いで、どこからが本物か、研究者の間でも意見が分かれています。

初心者の自信はどう変わる?(2018年)

1999年の論文の最後には、もう一つ注意があります。自分を高く見積もるには、最低限の知識や経験が要る。何も知らない分野では、そうはならない、というものです。8 2018年の論文では、大人40人に、実験用の架空の病気「ゾンビ病」の診断を60回くり返してもらいました。11

2018年の論文の手順

架空の病気「ゾンビ病」の患者の症状を見て、診断する
当たっている自信を答える
すぐ正解を教わって、これを60回くり返す

正解の割合と自信の変化

図の読み方 横は何回目の診断か。青=正解した割合、ピンク=当たっている自信。ピンクが青より上にある所は、実力より自信の方が高い、ということです。

正解した割合は54%から64%へ、ゆっくり上がっていきました。一方、当たっている自信は、数回で正解の割合に追いつき、その後はっきり上回るようになって、27回目には自信が正解の割合を約13ポイント上回りました。11まったくの初心者ではなく、少しかじった頃に、自信が膨らみやすい。ただし、これは参加した人の平均の話です。11

まとめ

  1. 点数が低い人ほど、自分を実際より高く見積もった。4つの実験で、くり返し出た結果
  2. ほかの人の答案を見ても気づけなかった。でも、解き方を教わって力がつくと気づけた
  3. 馬鹿の山のグラフは、この論文にはない。統計の見間違いで大きく見える部分もある
ココ
じゃあ私は、ダメな人じゃなくて、少しかじって自信が膨らんだ、よくある初心者ってことね。ちゃんと教わりながら、文化祭まで練習する!
レイ
……リハで固まったのは、事実だけどね。

Footnotes

  1. McIntosh, R. D., & Della Sala, S. (2022). The persistent irony of the Dunning-Kruger effect. The Psychologist. https://www.bps.org.uk/psychologist/persistent-irony-dunning-kruger-effect ↩

  2. meme.com「Dunning Kruger Effect Meme: Mt. Stupid Origin & History」 https://meme.com/memes/dunning-kruger-effect ↩

  3. Paris, J. (2014). Lessons from Mt. Stupid. https://josephparis.me/my-articles/lessons-from-mt-stupid/ ↩

  4. Gartner Hype Cycle(Jackie Fenn, 1995)。Wikipedia「Gartner hype cycle」 https://en.wikipedia.org/wiki/Gartner_hype_cycle ↩ ↩2

  5. Bernoff, J. (2018). Analysts, the Dunning-Kruger effect, and the Gartner hype cycle. https://bernoff.com/blog/analysts-dunning-kruger-effect-gartner-hype-cycle ↩

  6. Chou, Y. (2026). Dunning-Kruger Effect: Why Low Skill Feels Like High Skill. https://yukaichou.com/behavioral-analysis/dunning-kruger-effect-incompetence-overconfidence/ ↩

  7. Weinersmith, Z. (2011-12-28). Saturday Morning Breakfast Cereal. https://www.smbc-comics.com/comic/2011-12-28 ↩

  8. Kruger, J., & Dunning, D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134. ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16

  9. Nuhfer, E., et al. (2016). Random number simulations reveal how random noise affects the measurements and graphical portrayals of self-assessed competency. Numeracy, 9(1). ↩

  10. Kruger, J., & Dunning, D. (2002). Unskilled and unaware—But why? A reply to Krueger and Mueller (2002). Journal of Personality and Social Psychology, 82(2), 189–192. ↩

  11. Sanchez, C., & Dunning, D. (2018). Overconfidence among beginners: Is a little learning a dangerous thing? Journal of Personality and Social Psychology, 114(1), 10–28. ↩ ↩2 ↩3